|
【Profile】
ハッチョウボリ・デザイン・オフィス |
経歴
|
今号からの新企画となる「クリエイターズボイス」。第1回目に登場いただくのは、ハッチョウボリデザインオフィスの岡村航太さん。岡村さんは、一棟丸ごとリノベーションするという大きなプロジェクトに3度携わっている「リノベーション設計のプロ」。リビタのお客さまにインタビューする「オーナーズボイス」でも、岡村さんが手がけた物件がたびたび紹介されています。 「お客さまの日常を知ることこそが、家作りが成功する最大の近道」という岡村さんが考える、住まい作りに対する建築家としての思いとは?建築家が身近に感じられるエピソード満載の声をお届けします。
- 岡村さんはリビタが設立された翌年から、一棟丸ごとリノベーションのプロジェクトに携われてこられましたが、 どのような担当をされたのでしょうか?
- 今まで担当させていただいたプロジェクトは、旧い順からあげると、①リノア都賀(千葉県:2006~2007初)②リノア相模大野(神奈川県:2006.10~2007.12)③リアージュ南浦和ヒルズ(埼玉県:2007.4~2008)の3プロジェクトです。基本的には、ご契約をされたお客さまの内装のリノベーションを設計担当としてお手伝いしてきましたが、リノア相模大野プロジェクトでは外構や外観デザインを含む共用部リノベーションの設計統括をさせていただきました。
![]() | ![]() | ![]() |
| リビタで担当されたプロジェクト(左から「リノア都賀」「リノア相模大野」「リアージュ南浦和ヒルズ」) | ||
- 今までのプロジェクトを振り返って、印象深かった出来事や初めて体験したことなど、エピソードがあれば教えてください。
- そうですね。例えば千葉のリノア都賀では内装のリノベーション設計をしたのですが、設計契約が30数件、簡単なプチアレンジが20数件と、総戸数93戸のうち約半数の世帯を担当させていただきました。当時はまるで1000本ノックのようでしたね(笑)ひとつのマンションの中でこんなに多くのお客さまを担当する経験ははじめてだったのですが、設計が終わった後に物件に行くと、知っているご家族とたくさん出会うんです。どこを歩いても「こんにちは!」「お元気ですか?」「お変わりないですか?」とね。それがなんだか不思議な感覚で、まるで地元で近所の人と会っている感じ(笑)。いろんなキャラクターの家族と出会って、それぞれの家族のためのリノベーション設計をしたことで、僕も一員になれたのでしょうね。一人の設計担当者ではありますが、そうしたコミュニケーションが育めたのは、一棟丸ごとリノベーションならではの経験だったと思います。
また、先ほど話したリノア都賀の1000本ノック?!の経験もあって、お客さまのニーズや傾向がわかってきたので、次のリノア相模大野の設計にまた参加することになったとき、キッチンバリエーションや和室を書斎にするプラン、お風呂にオプションをつけるプランなど、ニーズの高いリノベーション・プランをあらかじめ何パターンか用意してまとめた「アレンジメニューブック」を作りました。これはリノア相模大野の間取りや広さがすべて同じだったので、どの部屋をお選びいただいても適用できるという汎用性があるツールであり、販売担当者にとっては説明しやすく、お客さまにとっては理解しやすく、設計担当者にとっては図面を引きやすいツールになりました。通常の僕たち設計担当者からすると、施主がいない不特定多数の方に受け入れられるバリエーションを作り出すという作業は、特殊な体験でしたね。

リノア都賀のお客さま施工事例。同じ間取りでも、和室タイプ、開放タイプ、そして照明の作り方などお客さまの個性にあわせて違うものに生まれ変わる。
![]() |
アレンジメニューブックの一部。お客さまの声が凝縮されたリノベーションのノウハウがぎっしり! |
- さて一方で、自分の願いどおりに住まいを創ることができるのもリノベーションの魅力。でも、一般の方が住まいの要望を伝えることはちょっと難しいはず。岡村さんはお客さまのご要望をどのように汲み取って設計を進めていかれるのでしょうか?
- 最初にお客さまのご要望をとことん聞きだすことはもちろんのこと、今住んでいるところの好きなところ、嫌いなところ、困っているところ、重宝しているところなどを具体的にお聞きするようにしています。お客さまの日常(暮らし方)を知ると、なぜ対面キッチンにしたいのか、なぜそんなに収納が欲しいのかという要望の背景がみえてくるんですよ。でも、いくらお客さまの日常生活を垣間見ようとしても、中には建築家を敷居が高いと思っている人がいて、構えてしまう方もいます。そういうときは、小さいお子さんがいるようだったら、自分も子供がいるので共通の話題を持ち出してみるとか、趣味をお聞きするとかして、お互いの意思疎通の基盤をつくっていきます。ファミレスでしゃべっているようなリラックスした時間の中で、お客さまのご要望の本質を引き出したいと思っていますね。
![]() |
ハッチョウボリデザインオフィスのある事務所は、2つの建築事務所がシェアしており、打ち合わせスペースは共有しているそう。 窓の外からは近所から元気な子供たちの声が聞こえてくる。 |
- 新しい住まいを創る・・・といっても、暮らし方がガラリと変わるわけではなく、お客さまの未来の日常ですから、本質的には今と繋がっているということですね。
- そう、だから純粋に今の暮らしを話して欲しいんです。よくファッション誌とかで、「この秋のトレンドは○○」とか「今、新鮮なのは○○派」とか表現されていますけど、だからといってそれを全部マネする必要はないし、実際にはもっと自分好みの格好をしますよね。なのに、住宅に関してはみなさん「お勉強」をされてきて、限られた範囲の中でおさめようとしてしまう。今はインターネットや雑誌などで、建築の知識や最新情報やトレンドが一瞬にして取得できます。そういうスクラップブックを用意するのはとてもわかりやすいのですが、それがマニュアルになってしまうとその中の言葉で話そうとされるんですよね。それに固執するばかり、どこにでもあるリクエストしか言えなくなる。何かを伝えたくても、こんなこと言っちゃいけないんだと勝手におもいこんでしまうのかもしれません。今流行のこういうスタイルにしたい!もいいけれど、日常的にこんな時間が好きとか、こんなスペースがお気に入りとか、その人ならではのお気に入りを言ってくれたほうが、よりその人のための住まいに近づける。つまり、情報は相対的にみるだけでいい。もうちょっと気楽に自分の言葉で話して欲しいと思いますね。
![]() |
| 「軒先でおばあちゃんがちょこんと座っている風景をみかけると居心地のいい場所なんだろうなあと気付かされます。」と岡村氏。 |
- 「自分の言葉で話していい」そういわれると、ちょっと安心します。その反面、「あれもしたい、これもしたい」と100個くらい要望を出してきたらどうやって整理するのでしょうか?
- 構造上や物理的にできることとできないことはありますが、それはたいがいご理解いただけます。それ以外のご要望がどんどんでてくるというのはいいことです。僕はお客さまのご要望は100%応えたいと思っているので、どんどんわがままを言ってもらってかまいません。出てきた要望を言葉通りに捉えると、中には矛盾することが出てきたりもするんですよね。なので、その矛盾する要望を1つの住まいの中に共存させるために、その意図や内容を意訳というか解体してあげる作業を一緒にしていきます。
- ご要望を解体するというと?
- お客さまのご要望は断片的なことが多い。要望をひとつの住空間にまとめていく作業は、優先順位を決めるときに建築家もお客さまも悩みますよね。AとBとCを適えたいけれど、Aを優先するとBとCはダメ。Bを優先するとAはダメでCはできる、みたいな。すべてがリンクしているからと論理的に説明をし、同意をいただかなければなりません。
でも、なんとか適えて差し上げたいと考えるわけです。そこで要望を解体するんです。言葉通りにAをAとしてみるのではなく、実はa1、a2、a3、・・・っていう内容に分けて考えてみる。その時、要望の背景が分かっているとコアになる部分がa1だということが見えてくるんですよ。そんなさまざまな思考を繰り広げる中で、あるとき【ブレイクスルー】する時があるんです。
- ブレイクスルーする!?
- そう!例えば、リノア相模大野のお客さまの例でいうと、壁に洞穴のようなニッチな空間が欲しい。そこにTVを掛けたり、腰掛けたり、ゴロンと寝転がれる空間が欲しいと。でもそうするとリビングが一気に狭くなってしまう。できる限りリビングの広さを確保しながらニッチを実現できないか・・・。その葛藤の中で出した結論は、リビングの仕切り方を、壁に垂直ではなく15度~20度くらい斜めに振っただけ。つまり、要望としての言葉「ABC」が、お客さまにとってコアな部分が凝縮した「abc」になっている。まさにそのときがブレイクスルー!(笑)お客さまにも喜んでいただけました。
![]() |
![]() 岡村氏がフルスケルトンから設計したお客さまの事例。お客さまのインタビューはこちら。ご夫婦それぞれの個性を活かした理想の住まいが実現! |
- 課題を乗り超えたら、なんだかスカッとしますね(笑)でも、お客さまのご要望は、100個もあるわけです。どうやってひとつひとつを適えていくのでしょうか?
- お客さまの100個の要望は、いくつか同じことを違う表現で言っていることもあります。それは早い段階でまとめておく。すると最初の100個のうち、物理的にも問題なく実現できそうなのは70個くらいだと気づきます。でも、70個の優先順位を葛藤していると、ときどき排除したはずの30個分の要望を適えられるあらたなアイデアが浮かぶこともある。これもブレイクスルーですね。そういうのを繰り返していくと精査されていく気がします。
- なんだか翻訳家とプログラマーを足したような作業ですね(笑)図面に描かれるまでの作業って大変そうですね。
- ご要望が何個あろうと、お客さまにとって譲れない確固たるモノは、たいがい2、3個でそれが1~3位。その後の4~10位は、その下の11~50位といつ取り替えられるかわからない状況。だから、図面をひいたとしてもそれが本当なのかなといつも思います。だから、優先順位も言われたものだけやるのではなく、内容を吟味して、お客さまからお聞きしたライフスタイルを忘れずに、コアなところだけを残していく。単なる翻訳だけではダメだといつも思っています。
![]() |
| 「お客さまの考えは十人十色。要望に応えるために、毎日葛藤しています。それが楽しいんですよ。」と岡村氏。 |
- 岡村さんはそんな熱い思いでお客さまと接していらっしゃるのですね。冒頭で話されていた1000本ノック並みの(リノア都賀の)お客さまが、まるで地元の顔見知りのように感じるのも納得できる気がします(笑)
- 確かにスケルトンからフルリノベーションで住まいを創っていくという作業は、お客さまにとっても大変な作業だと思います。中にはクリエイティブなカップルの方もいて、苦労を苦労とも思わず一緒に楽しんでくださることもあります。でも、そもそも一棟丸ごとリノベーションというのは、お部屋も共用部も、今ある“イイ”ものは、壊さず使い続けるという精神です。リビタさんがスタンダードで用意されたもので十分というお客さまもたくさんいます。その中で出会ったのが、子育てもおわり、お仕事もリタイアされて第二の人生を謳歌するステージとしてリノベーションマンションを買われたリノア都賀のお客さま。工事中に和室の敷居の部分でちょっと傷ついたところがあり、そこを職人さんがご好意で削ってならしただけなのですが、「そこまでやってくれて本当にありがとう。このままでも使えるものなのに、もっと良くしてくださって。」と感謝されてしまいました。人によっては「こんな一箇所だけやってもダメでしょ。やり直して。」という方もいるでしょう。そのお客さまからの感謝の言葉は、本当に嬉しかったですね!そんな方がいるから、ますます地元みたいに感じるようになったのかもしれませんね(笑)
- では最後に、これからリノベーションで住まいを検討されている方にメッセージをお願いします。
- 例えば、就職活動のときに自己分析をしますよね?その結果でマニュアルの中に自分をあてはめて対策を練ってもいい結果にはならないじゃないですか(笑)雑誌やファッション誌を読むときとも同じ。どんなにトレンドでも似合うかどうかは人それぞれ。だからこそ冒頭でも言ったように、自分の日常をみて、とにかく自分の言葉で自分の住まいを知って欲しい。それが最初の一歩ではないでしょうか。住まいに重要なのは、設計図の前に普段着の住まう人。図面という二次元のものが、工事されて三次元になったとき、今までずっと大切に使ってきた家具が入って、普段の生活が行われて、はじめて“リアリティ”を持てるのだと思います。とくに、リノベーションマンションを選ぶお客さまは、通常のマンションを検討している人たちより、家を「創る」「建てる」そして「参加している」という意識が高いように思います。事業者さんや建築家にとっては嬉しいこと。たくさんの人が、世の中にある一番いいマンションを買った!と喜ぶより、世の中で自分に一番似合うマンションを創った!といって欲しい。僕もこれからたくさんの人と出会って、新しいことにどんどんチャレンジしたいと思います。
■FOCUS!
おまけの質問コーナー。クリエイターのみなさんのお気に入りや最近のお仕事などをご紹介いたします!
- 「ハッチョウボリ・デザイン・オフィス」という会社名の由来は?
- 造語とか外国語を社名にあてはめるのってどうしてもしっくりこなかったんです。ニュートラルでいたいし。それで日本の住まいを作るお手伝いをしているわけだし、日本の街の名前がいいなとおもって決めました。
- なるほど!「八丁堀」って、THE日本、THE東京ってイメージ。響きもなんだかかっこいいですね(笑)
- ありがとうございます。でもおかげでここの住所からオフィスをしばらく移転できません(笑)
![]() |
![]() |
| 東京都中央区八丁堀はビジネス街でありながらもレトロな空気が存在する居心地のいい街。 | |
- 現在はどのような設計をされているのでしょうか?
- 今は注文戸建を数件と、オフィスビルのリノベーションを1棟すすめています。
![]() |
![]() |
| (左)ショールーム兼オフィスを計画中!(右)事務所の中。岡村氏の奥は先輩の事務所だそう。 | |
![]() |
![]() |
| (左)お気に入りのワイヤレスヘッドフォン。仕事時はこれで集中! (右)岡村氏のデスク周り。手帳や電卓などビジネスグッズは全てBLACKで統一。「すぐ散らかしてしまうので、黒で揃えて固めておいてあります。そうしても、テキトウにしていてもゴチャゴチャしなくていいんです(笑)。」 | |
- ちょっとだけプライベートな質問をお聞きします。ご趣味は何ですか?
読書です。 遠方の現場にも行ったりするので、移動中に本は欠かせませんね。 そんな移動時間が結構好きです。 井坂幸太郎さん、三浦しおんさん、山田悠介さんとか、同世代の方の小説を読むこと が多いですね。 
遠く盛岡(秋田県)の現場までの往復時間は読書タイムに。
- 最近はまっているものはありますか?
- 泡盛です。子供が寝静まった後に、妻と1,2杯やってます。
- 岡村さんの宝物は何ですか?
娘「いこい」です。 ちなみに、名前は事務所と同じで、ありきたりはイヤなんだけど、拘りすぎた造語にもしたくなかったんです。なので、あまり名前としては使われていないけど、日常的な日本語で、音として優しい言葉をつけました。 
生後8ヶ月のいこいちゃん。
岡村氏が担当したリノベーションのお客さまの声 「オーナーズボイス」インタビューはこちら!
オーナーズボイス vol.4(前編)脱却!マンション然の家
オーナーズボイス vol.4(後編)趣味をMIX![ミッドセンチュリー×北欧スタイル]
オーナーズボイス vol.5(前編)「広い・住みやすい・安心」を目でみて実感
オーナーズボイス vol.5(後編)我が家のキッチン大作戦!
「お客さまの日常を知ることこそが、家作りが成功する最大の近道」という岡村さん。静かな物腰で熱く語るその言葉のひとつひとつは、お客さまへの思いやりであふれていました。また「建築の歴史とか科学の歴史とか、なんでもそうだと思うのですが、“否定”から入るのではなく、いいものがあるからこそ、次にいいものができる。アンチ特殊でもなければ、脱!ありきたりでもない。お客さまの思いがスーっと入ってくるように、僕はニュートラルかつ肯定型でいたい」とも。岡村さんはなんでも気軽に相談できる近所のお兄さん的な存在。もしかしたらみなさんの近所のファミレスで、お客さまとニコニコお打ち合わせをしている光景をみかけるかもしれませんね。
文:石川/撮影:中渡瀬















